『味方を増やす「口説き」の技術』
G・リチャード・シェル、マリオ・ムーサ共著
ダイレクト出版
〜相手を説得する戦略的プロセス〜
『説得』の技術と聞いてあなたは見込み客に商品やサービスを上手に売る方法を教えてくれる本だと思いましたか!?
しかし、この本で取り上げている説得の種類は、自分が思いついたビジネスのアイデアを決定権者や組織の上層部に売り込むことを想定して書かれたものです。
『それなら、あまり多くの場面で使えそうもないな』と思いましたか!?
いいえ、決してそんなことはありません。
あなたは、普段生活する上で様々な場面で意識しているか無意識化は別として相手を説得しているはずです。
例えば、休日のランチにイタリアンが食べたいという配偶者に自分は中華料理が食べたいと主張するのも説得です。
そもそも、その配偶者と付き合ったり、結婚したりするのも説得の結果であったはずです。
ですから、自分のアイデアを相手に説得してもらうという技術はあなたが生活していく上でとても大事なスキルなのです。
説得とは、相手を言い負かすことではない!
説得と聞いて、何だか相手を言い負かしてこちらの意見を通そうとする行為だとイメージを持っていませんか!?
実は、私も説得は苦手で、商品やサービスを売り込むことに後ろめたい気持ちを持っていました。
そもそも、説得というのはちょっと強引で声が大きい人が得意なものだというイメージを持っていました。
しかし、この本では説得には様々なスタイルがあり、あなたにあった『説得スタイル』を選べばいいということでした。
もちろん、先ほど私があげたような自分に自信があり声が大きいひとが得意とする説得スタイルもありますし、相手の立場に立ってお互いの利益を尊重するおだやかな説得スタイルもあるということです。
もし、あなたが自分はどの説得スタイルが合っているのか知りたければ、本書巻末の『説得スタイル診断テスト』を受ければ自分に合った『説得スタイル』を知ることができます。
自分に合わない説得スタイルを無理に演じることはないのです。
説得の障害となるもの!
本書では、相手を説得する上で障害になるものをいくつかあげていますが、その最たるものが『人間関係』です。
説得する相手との『人間関係』が上手く構築されていなければ、そもそも相手はあなたの意見をそれほど興味を持って聴くことはないでしょう。
本書の中でも著者のひとりである『マリオ・ムーサ』氏は、『口説き』とは人間関係に裏打ちされた説得行為であると定義しているように、説得には人間関係をいかに上手く築くことが重要であると言っています。
相手を言い負かしたり、心理学的な駆け引きでこちらの思うように人を操ることに嫌悪感を抱いている人にとっても、相手といい人間関係を築きましょうという主張には異論はないでしょう。
説得は相手の感情に訴えるもの!
本書では、説得のプロセスにおいて面白い表現をしている箇所があります。
それは、次のようなフレーズです。
『どんな説得でも、あなたの聞き手はふたりいる!』
これは、いったいどんな意味でしょうか!?
ふたりとは、『理性』と『感情』です。
『理性』とは『計算機』と表現している通り、あなたの主張や提出された証拠が本当に正当なものか論理的に判断するものです。
『感情』とは『直感』とも言われ、あなたのアイデアをどんな印象をもって受け入れるものです。
興味深いことに本書では『感情』の方を『決定権者』と主張している点です。
決定を下すのは『理性』の方ではとあなたも思ったのではないでしょうか!?
消費者行動心理学で有名な言葉に、『消費者は感情で購入を決定し、理性で後で理由付けをする』や
『人は必要なものは買わない。欲しいものを買う』というものがあります。
やはり、決定権者は『感情』の方に違いありません。
ですから、説得も理詰めばかりではなく、相手の感情に配慮したものであることが望ましいのです。
そのためには、相手の視点から物事を見たり考えたりすることが必要です。
そして、本書では相手のことをよく知るためには、まず自分のことをよく知らなければならないとも言っています。
『彼を知り己を知れば百戦殆からず』という『孫氏の兵法』に通じるところがありますね。
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