消費者の購買行動は経済合理性では考えられない感情に基づく選択をしているということが『脳科学マーケティング』の分野で明らかになってきました。
今まで、脳科学マーケティングの概要について説明をし、なぜ説得をする際に相手の原始脳に売り込むと効果的なのか見てきました。
そして、どのような刺激が消費者の原始脳を説得するのに役立つかも見てきました。
さらには、消費者に与える刺激の中でもなぜ『消費者の痛み(不平、不満、恐怖、心配など)』が重要であるのかを見てきました。
最後に、今回は『脳科学マーケティング』を使った消費者の説得の実践的な試みについて見ていきたいと思います。
消費者に伝えるべきメッセージの構成要素とは!?
今回も、『クリストフ・モリン』氏と『パトリック・ランヴォワゼ』氏による共著『売れる脳科学〜レプティリアン脳に売れ!』にて書かれた消費者に伝えるべき効果的なメッセージの作り方を参照していきたいと思います。
本書では、消費者に伝えるべきメッセージの構成要素を『6つの説得の元素』として説明しています。
説得の元素①つかみ
広告、Eメール、ウェブサイト、パンフレットなどで売り込みのメッセージを伝えようとしても、相手は他のことに関心があるため、あなたは彼らの関心を引き、売り込みのメッセージを見てもらうのに精神的なエネルギーを注いでもらう必要があります。
人間の体は、毎秒1100万ビットもの情報を脳に送り込んでいますが、意識的に処理できる情報量は毎秒50ビットほどだと言われています。では、脳は何に注意を傾けるべきかどのように判断しているのでしょうか!?
ドイツの『マックス・ブランク脳科学研究所』ではそのメカニズムについて次のように説明しています。
『予備的注意によって、情報を迅速に処理し、計算結果を正しく伝えることができる。』
『予備的注意とは、注意を引くように、あらかじめ皮質神経回路を効果的にプログラミングすることだ。』
このことが、『つかみ』の役割で、予備的注意を促すために消費者はそれ以降のメッセージを理解しやすくなります。
つかみの種類として、小道具、ミニドラマ、相手の心をつかむような言葉遊びなどがあげられます。
そして、つかみとしての『小道具』は文字通り、手でつかめるぐらいの大きさのものが人に気を引くようです。
いきなり、商品説明や会社概要、自己紹介から始めてもつかみにはなりませんのでご注意を!
説得の元素②主張
説得力のあるメッセージには、次のような要件が含まれていなければなりません。
その要件とは、『関連性』と『緊急性』です。
その2つの要件を満たすためには、主張によって相手に理解してもらいそして記憶してもらう必要があります。
優れた主張をすることも大事ですが、それを視覚的に伝えて相手に理解してもらうことはもっと大事なことです。
あなたの主張を相手に伝えるためには、視覚的で感情的な手段で表現することが重要です。
本書『売れる脳科学〜レプティリアン脳に売れ!』では、主張を視覚的に訴える手段として短いキャッチフレーズと『アイコン』を組み合わせた視覚に訴える表現手段を推奨しています。
説得の元素③全体像
脳にメッセージを送るのには視覚的に訴えると効果があるという話をしました。
従来のマーケティングでは消費者に商品やサービスを売り込むときにメッセージを言葉で伝えようとする傾向がありました。
あなたがプレゼンを受ける立場だとして、いくらパワーポイントを使って小ぎれいにまとめられたプレゼン資料であったとしても、文字ばかりだと退屈するのではないでしょうか。人間の視覚の処理速度は速いので、プレゼンの主がパワーポイントの文字を読み上げるようなプレゼンをすると、あなたがその文字を読む時間の方が断然速いのでイライラするのではないでしょうか。
この場合の『全体像』というのは、あなたの扱っている商品やサービスが相手の状況(生活や環境)にどのような影響するのかを示した画像や絵のことです。
全体像を取り入れることで、相手は、あなたが何を実現してくれるのかというシンプルなコンセプトを理解できるでしょう。
ここで注意すべき点は、売る側のあなたの目線ではなく、あくまでも消費者の目線でとらえたものでなければならないということです。
そして、商品やサービスと関連性の低い画像では、相手にあなたの意図が伝わらないということです。
綺麗な女性が微笑んでいるだけでは、相手の脳は混乱するだけです。
さらに、文章が多すぎる画像や組織図のような複雑なものは避けた方がよいでしょう。
説得の元素④ベネフィットの証拠
ベネフィットの証拠とは、お客さまの声です。
ここでの注意点は、嘘っぽい社交辞令のようなお客さまの声は紹介しないことです。
これは、相手の抵抗にあうことになります。
具体的に数値でその効果を表現してもらうとよいでしょう。(コストや作業時間が10%向上したなど)
説得の元素⑤反論のリフレーミング
本書の言葉をそのまま使いましたが、いわゆる『断りへの対応』です。
見込み客の反論として考えられるのは次の2種類です。
①誤解による反論
こちらの反論に関しては比較的対応が容易です。
追加の情報を提供したり、論理的に説明すれば相手が納得する場合がほとんどでしょう。
②認識によって生まれる反論
あなたの主張が正しいか間違っているかは関係なく、見込み客があなたの提案には従えないつまり『後悔の恐怖』の方が勝っているため論理的な説得方法は通用しないでしょう。
その場合には、比喩や物語りによる説得の方が効果があるでしょう。
その時に大事なことは、いったん相手の反論に同意を示すことです。
その上で相手の反論に対し尊重しながらも、相手の方に踏み込んで異を唱えるのです。
なぜ、相手の方に踏み込むのかというと、もしあなたが相手の反論に対し一歩引きさがるような態度を示すと、相手の原始脳は自分の反論が正しいと見なしてしまうからです。
そして、相手の反論はこちらの売り込みのチャンスだととらえることが効果的です。
値段が高いという反論に対しては、品質が良い、長持ちするという特徴をアピールするチャンスです。
販売が遅い(後発商品だ)という反論に対しては、ユーザーの満足度を高める改善をしているというアピールができます。
反論があることはラッキーだと思ってもいいでしょう。
反論があることは意志決定の機会が近づいている証拠です。
説得の元素⑥締めくくり
いわゆるセールスの世界でいう『クロージング』です。
私も保険営業をしていた時にこのクロージングが苦手でした。
商品説明をしている時は、熱心に相手に語りかけることができましたが、『さて、どうしましょうか!?』の一言が言えませんでした。なぜなら、この言葉を言ったら断られるのではないかと恐怖を感じていたからです。見込み客に断りの言葉を言われたらそこでセールスは終わりです。文字通りクロージングです。
ただ、本書では3つのプロセスを淡々にこなすだけでよいと言っています。
そのプロセスは次の3つです。
①主張を繰り返す。
主張を繰り返すことによって、消費者の痛みを和らげるにはその主張がいかに重要で緊急性があるかを伝える合図になるからです。
②『どう思いますか』と聞き、相手の答えを待つ。
③『これからどうしましょうか』と聞き、相手の答えを待つ。
②の『どう思いますか』という質問は、購入しますかと聞いているのではありません。あなたの主張に対してどのように感じているかを問いているのです。あなたの主張に共感したら『一貫性』の影響を引き出すのです。相手は後で考えを変えるのを嫌がり、また質問したことで処理流ちょう性(あなたの主張を理解しやすくする)も高まります。
『一貫性の影響力』とは、人は言動に一貫性がない人は好ましい人とは思えないもので、筋の通った人になりたいと誰しも思うでしょう。
また『どう思いますか?』と尋ねるのには意味があります。
多くのセールスパーソンは締めくくりの言葉として『質問はありますか?』と尋ねると思いますが、これだと相手から何も引き出せないで終わってしまう可能性があります。
その点、『どう思いますか?』という問いには、質問はなくても相手の意見を引き出すことはできるでしょう。相手は自分の意見を聞いてもらいたいものです。
さらに、『これからどうしましょうか?』という質問には、次のステップに進むことを相手に提案または確認してもらうように勧めているのです。決してあなたが一方的に提案しているわけではないのです。
必ずしも、ここで相手から『どこにサインしたらいいでしょうか』という都合のよい返事ばかりを期待することはできませんが、ここで色よい返事がもらえなかっとしたら、ここまでのプロセスであなたと相手の信頼関係はまだ出来上がってなかったのかも知れません。
ただ、あなたがこれらの6つの説得の元素を理解し、その習得に磨きをかけていけばより説得力のあるメッセージを作ることができるようになると思います。
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